田中角栄首相の都道府県知事会議於ける演説

 (最新見直し2006.4.28日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 


【1973.9.12日、全国知事会議における田中内閣総理大臣説示
 データベース『世界と日本』」(東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室 )所収の左枠「国会外の演説・文書 総理大臣」の該当箇所より転載する。

 全国都道府県知事会議の開催にあたり、所信の一端を申しのべ各位の理解と協力をいただくとともに、きたんない意見を聴取し、国、地方を通じて緊密な連けいのもとに行政の一層の進展を図りたいと思います。

 私は、昨年九月、この席においてのべた施政のめざすべき方向にしたがい、各般の施策を行ってまいりました。

 (物価の安定)

 特に、昭和四十八年度の政策運営にあたっては、国際収支の不均衡の是正、国民福祉の向上、物価の安定という相互にトレード・オフの関係にたつ三つの課題を同時に解決することに、全力を傾けてきました。その結果、国際収支の不均衡は、予想を上まわるテンポで是正がすすみ、二月末、百九十億ドルに達した外貨準備も八月末には百五十一億ドルとなっております。

 次に、国民福祉の向上については、四十八年度予算において社会保障の充実、生活環境の整備等の面で各般の措置が講じられており、今後も昭和六十年展望に立って、着実に施策を積上げてまいりたいと考えております。

 当面する最重要課題は物価の安定であります。

 今日の物価騰貴は、予想を上まわる需要超過を基本的な背景とし、加えて、異常気象などによる海外の食糧、原材料の値上がり、更には国内における労働力需給のひっ迫、水不足、工場火災など供給面における制約要因が複雑に絡んでおり、問題の解決を著しく困難にしております。

 政府は現在まで、去る八月三十一日に決定をみた物価安定緊急対策を含め、四次にわたる公定歩合の引上げや公共事業の線延べなど財政金融面からの対策を講じたほか、輸入拡大策の強化、生活必需物資の生産流通対策の拡充、民間設備投資の抑制や消費者信用の調整などに努めております。昭和四十へ年産生産者米価を一六・一パーセント引き上げたにもかかわらず、政府売渡価格を年度内、据置くこととしているのであります。更に、今国会で成立をみた「生活関連物資の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律」に基づき、投機的取引に対しては、必要な措置をきめ細かく講じております。

 これらの対策の効果は、漸次現われてくるものと期待しておりますが、物価問題の重大性にかんがみ、今後とも物価動向を注視しつつ、必要な施策を機動的に実施していく考えであります。

 物価の問題は、先進工業国に共通する現代の悩みであります。昭和四十年から四十六年までの国民総生産の平均伸び率は、我が国の一一・一パーセントに対しアメリカ三・一パーセント、イギリス二・三パーセント、フランス五・七パーセントでありましたが、この間の卸売物価の平均上昇率は日本が一・七パーセントに止まったのに対し、アメリカニ・八パーセント、イギリス四・三パーセント、フランス三・三パーセントとなっております。特に最近の動向を見ると、対前年比でイギリスは約六パーセント、フランス一二パーセント、アメリカは一五パーセントを超えるなどスタグフレーションの様相すら呈しております。

 このような事態に対処して、これら各国は、賃金、物価の凍結、ガイドラインの設定などかなりドラスティックな対策を行っております。しかし、いわゆる所得政策は、我が国において国民的合意を得られる段階にないと考えますし、政府は、そのような道を選択しないで問題解決に取り組んでいるのであります。地域の経済活動、住民生活と緊密に接触しておられる各位におかれても、これらの対策について特段の協力を切望いたします。

 (土地対策・国土の総合開発)

 次に土地問題について申しのべます。

 土地は、憲法が認める範囲内で最大限に公共の福祉を優先する原則の下で、広く公正に国民に利用されなければなりません。現下の地価高騰の原因は、基本的には、宅地需給の不均衡にあります。(1)未利用地の活用、(2)都市立体化の推進、(3)国土の総合開発による宅地需要の分散と宅地の円滑な供給が、地価問題解決の抜本策であります。

 このため、市街化農地の宅地なみ課税、特別土地保有税、土地譲渡益に対する特別課税は、すでに実現致しました。また、昭和六十年展望に立って、新幹線鉄道、高速道路、地方港湾、水資源開発ダム整備の全国的青写真を作成し、新地方都市、学園都市の建設、それと平行する大規模宅地開発の推進、工業の全国的再配置等を軸として、国土の総合開発の施策を展開してまいります。現在、国会に提案している国土総合開発法案は、土地利用基本計画の作成、特別規制地域における土地取引の規制、特定総合開発地域における総合開発を促進するための措置等を定め、国土の総合的かつ計画的な利用、開発及び保全を図ることを目的とする土地対策の基本法的役割をになうものであり、一日も早い成立が望まれるのであります。

 経済企画庁は、このたび新全国総合開発計画の総点検作業の一つとして「巨大都市問題とその対策に関する中間報告」(素案)を発表し、「このまま産業と人口の集中が続けば、東京、大阪などの巨大都市圏は、昭和六十年には、国土資源の限界をこえて深刻な事態となる」と警鐘を発しております。それによると、三大都市圏は五千四百万人(現在は四千五百万人)、東京圏(一都三県)は、二千八百万人程度(現在は二千四百万人)が人口集中の限界であるが、現在のすう勢から推定すると、六十年には三大都市圏六千万人以上、東京圏は、三千三百万人以上になる可能性が強いとしております。その場合には、水、電気の不足が、慢性化し、住宅難や交通混雑は一雁ひどくなり、ゴミ処理、流通施設なども能力を突破して、環境水準や社会生活水準が、今より以上に悪化することは、明らかであります。

 いまや、巨大都市において、人口や産業を抑制し、生産機能のみならず中枢管理機能を選択的に強力に地方分散するとともに、地方において、中核都市や農山漁村の整備を行って、人口や産業の定着性と収容力を拡充してゆくことが急務なのです。これこそ、私の提唱してやまない日本列島改造論なのでありますが、国民の支持と理解の下に、国家百年の大計の観点から、強力に各般の施策を展開してまいります。

 (勤労者の財産づくり)

 次に、勤労者の財産づくりについてのべます。

 我が国の勤労者生活の現状をみると、賃金水準の向上によって所得面では、一応の充実をみておりますが、資産性の貯蓄や持家などの資産保有面では、著しく立ち遅れております。更に、すでに資産を持っている者と、これから資産を持とうとする者との間の格差は、ますます拡大する傾向にあり、これが勤労者の社会的疎外感と不公正感を助長し、一般的には豊かな社会といえるこの世の中で、生活への不満を深める大きな要因の一つともなっております。このため、私は、勤労者財産形成促進制度を改善するとともに、国土総合開発の一環として、昭和六十年までに地方に、宅地及び産労住宅五百万戸分、大都市近郊に、中高層住宅五百万戸を提供し、勤労者のマイホームの夢にもむくいてまいりたいと考えております。

 本年度の給与所得は五十兆円に達しようとしております。明日の生活設計に裏付けられた健全な貯蓄の推進は、緊要な課題であります。政府としても税制その他の面で一層の工夫をこらしてまいりたいと考えております。

 (社会保障)

 社会保障の充実は、国民福祉向上の柱であり昭和四十八年度予算編成においても、最も力を入れた課題であります。すでに御承知のように、政府は、物価スライド制を含む画期的な給付改善を内容とする年金制度の改正や家族、高額医療給付などの給付改善と保険財政の健全化対策を内容とする健保改正案を今国会に提出し、その速やかな成立を期しているところであります。

 今後の施策の重点として、老人や身体障害者、心身障害児のための社会福祉施設の整備を図ってまいります。医師、看護婦の養成確保など医療供給体制の整備をすすめてまいります。特に、原因が不明であり、あるいは治療方法が確立されていないいわゆる難病対策については、調査研究体制の強化などに特段の配慮を講じてまいりたいと考えております。

 我が国の社会保障は、制度の体系としては一応の整備を終え、今後は質的な充実を図ることが必要であります。政府は現在、社会保障長期計画の策定作業をすすめているところであり、その策定をまって社会保障の総合的かつ計画的な推進に取り組んでまいる所存であります。

 (教育問題)

 教育は、次代をになう青少年を育て、民族悠久の生命をはぐくむための源泉であります。

 政府は、教育の制度、内容の両面にわたり、総合的かつ長期的な教育改革の推進に努めているところであります。特に、人間形成の基本をなす義務教育の重要枝にかんがみ、こども心を導く先生によき人材を得るとともに、その情熱を安んじて教育に傾けられるような条件を整備するため、給与の抜本的改善を図るための特別の措置を講じることとしております。また、定年の延長についても真剣に検討いたしております。

 今後高等教育の機会拡大の要請に対して、高等教育機関の計画的拡充整備を図っていくことが重要な課題であります。現在、我が国には約九百五十の大学があり、百八十四万人の大学生が在学しております。このうち、六一パーセントの学生が、東京都及び政令指定都市に集中しております。このような大学の大都市集中が学園環境を悪化させ、他方、地方における人材養成の障害ともなっております。しかも昭和六十年の段階で、大学進学率が四〇パーセントに高まると、学生教は、更に七十七万人増加するものと予想されます。このような事態に対処して、昭和四十九年度から、大都市における新増設の抑制と地方における大学特に、単科大学、工業高等専門学校等の新設、拡充を計画的にすすめてまいります。その際、新学園は、既存の都市にとらわれないで、全く新しい視野と角度から環境のよい湖畔、山麓などに広大な敷地を確保して、理想的なレイアウトに基づいて後代に誇りうる優れた教育殿堂として建設してゆきたいと考えております。

 (資源・エネルギー対策)

 更に、今後の大きな問題は、資源・エネルギーの問題であります。

 資源・エネルギーは、急激な需要の伸びにより全地球的規模で枯渇化が懸念されております。とりわけ、国内資源の乏しい我が国にとって必要資源の供給確保は重要な課題となっております。また、国内では、資源・エネルギー消費の急増に伴い環境汚染問題が深刻化し、電力・石油精製等のエネルギー供給産業の立地は困難となってきております。

 こうした情勢にかんがみ、政府は、急速に需給のひっ迫を示しつつある電力問題に対処し、環境保全と周辺地域住民への周到な配慮を払いつつ発電施設の立地の円滑化に努めてまいります。また、石油資源に対しては、国際協調をふまえた対外経済協力の拡充を通じ、供給地域の分散化、備蓄の強化、エネルギー源の多様化を推進してまいります。その他、資源・エネルギーの合理的利用、回収再生利用の促進、新エネルギーの開発、更には資源・エネルギー節約型産業構造への転換についても長期的な視点から積極的に取り組んでまいりたいと考えます。

 (公害防止及び自然保護)

 また、エネルギー資源の枯渇問題に加えて、地球的な規模で広がるようになった環境汚染の問題があります。すでに大気や水質で汚染された地域については、環境基準や排出規制を強化、拡充するとともに、総量規制方式を確立してまいります。また、水銀汚染に関しては、大きな社会問題を引き起こし早急な解決が迫られております。このため、政府は、さきに水銀等汚染対策推進会議を設置し、汚染魚対策、工場等の排出源対策、いわゆるつなぎ融資等を実施してきたところでありますが、今後とも国民の不安を解消するための各種の対策を強力に実施してまいります。更に、不幸にして公害による健康被害をうけた人々に対する救済措置として、公害健扱被害補償法案を今国会に提出しております。

 更に、美しい国土、豊かな自然は、全国民のかけがえのない資産であり、これを長く後代に守り伝えてゆくことは、われわれの責務であります。環境問題は、「自分さえよければ」という考えでは決して解決されません。山や川は日本全体の共有物であり、海や大気は世界の共有物であり、それを汚染することは、人類の危機につながるという認識か必要であります。われわれ日本人いや全人額は、「宇宙船地球号」の乗組員であり、互いに運命を分かち合って生存しているのであります。公害先進国といわれている我が国は、公害絶滅の先駆的役割を果たすため、官民の総力を結集して環境問題に真正面から取り組んでゆく必要があります。

 なお、この機会に一言申し上げておきます。

 このたび、我が国の公共的なシンクタンクとして総合研究開発機構が政府、地方公共団体、民間協力により設立されることになっております。ここでは特に、地域社会の問題も重要な課題として取り組むこととしており、その調査研究の成果は、地方行政の進展に大きく寄与するものと考えられます。

 本機構の資金は、政府からの出資のほか、広く地方公共団体や民間からも出資を求めることとしておりますので、その設立、運営に関して、都道府県の格段の御協力をお願いする次第であります。

 (地方行財政)

 社会経済情勢の変貌と住民意識の変化に対応して「活力ある福祉社会」を実現していくために、地方公共団体の果たす役割が強く期待されております。

 このため、今後は、福祉優先の立場に立脚した地方行政の積極的な展開、すなわち、立ち遅れた生活関連公共施設の整備や社会福祉水準の向上を図っていく必要があります。これに伴って、予想される地方財政需要の増加に対応する政府は、住民負担の合理化に配意しつつ地方自主財源の拡充、国庫補助負担制度の改善、地方債の弾力的運用等になお一層の努力を重ねてまいる所存であります。

 以上、内政が当面している諸問題について所信の一端を申しのべましたが、これは、いずれも地方行政を担当される各位の協力を得て、はじめてその成果を期しうるものであります。各位におかれましても、財源の重点的な配分と経費の効率化を更に推進し、長期的な視野に立った計画的な行財政運営を行うことにより、積極的に地域社会の発展と住民福祉の向上を図られるよう十分御配意をお願いする次第であります。


【1974.9.25日、全国都道府県知事会議における首相説示】
 データベース『世界と日本』」(東京大学東洋文化研究所田中明彦研究室 )所収の左枠「国会外の演説・文書 総理大臣」の該当箇所より転載する。

 全国都道府県知事会議の開催に当たり、所信の一端を申し述べ、各位の御理解と御協力をいただくとともに、きたんのない御意見を聴取し、国、地方を通じて緊密な連けいのもとに、行政の一層の進展を図ってまいりたいと存じます。

 我が国は、長期にわたり、めざましい経済成長を遂げ、国民生活は年々顕著な向上を続けてまいりました。これはひとえに国民のたゆまぬ努力の賜であります。しかし、同時に、この間における国際情勢など四囲の環境が我が国に比較的有利に展開したこともみのがすことはできません。最近の国際経済情勢は、資源・エネルギー、食糧問題を契機として不安と動揺を続けており、多くの国が物価の高騰、経済成長の落ち込み、国際収支の悪化等の問題に直面しております。しかも今日のごとく、これらの問題が相互に密接に関連し、各国間の経済交流が緊密になっている状況下にあっては、一国のみで有効に対処しうる余地は限られており、国際的な協調は、不可欠の要件であります。我が国のように、資源に乏しく、その大部分を海外からの供給に仰がなければならない国にとっては、特に然りであります。そのためにも短期的な利益のみにとらわれることなく、各国との協力と連帯の下に、長期的な視野に立って、政治的にも経済的にも新しい秩序を創り出していく努力を怠ることはできません。

 私は、先般のメキシコ、ブラジル、アメリカ合衆国及びカナダに引き続き、今月末からさらにニュージーランド、オーストラリア及びビルマの訪問を予定しております。これら諸国首脳との会談を通じて、相互理解と友好関係を一層増進させることにより、我が国外交の地平をひろげ、国際社会の中での我が国の発展と方向とその果たすべき役割を見究めたいと考えております。

(物価の安定)

 物価の安定は、最も緊要な政治課題であります。世界各国もまた物価抑制を最大の政治課題とし、全力を挙げて、この間題と取り組んでおります。

 今日、各国が当面している物価問題は、さきに述べたように、石油、食糧、オイル・マネー等の国際的諸問題と複雑に絡み合っており、その解決が容易でないことも事実であります。各国においては、財政金融の引締めはもとより、増税、物価・賃金の統制等各般の政策手段が講ぜられたところでありますが、なお有効な決め手にはなっていない状況であります。

 我が国は、昨年来、財政金融政策を中心とする総需要抑制策を堅持するとともに、石油価格の上昇に伴う関連物資の価格上昇を合理的な範囲に抑えるよう、個別物資対策についても、地方公共団体の御協力のもとに、きめ細かな措置を実施してまいりました。特に、石油関係二法の施行について格段の御協力をいただきましたことを多とするものであります。

 引締め政策が浸透し、需給の緩和が進むに伴い、物価の勝勢には鎮静化の傾向がみられ、総じて落ち着きを取り戻しつつあります。しかし、資源・エネルギー価格の上昇に加えて、さきの春季賃金交渉による大幅な賃金上昇などコスト面からの物価上昇に対する圧力は依然根強いものがあります。我が国経済を正常な安定路線に乗せるには、この際、インフレ・マインドを払しょくするなど、さらに一層の努力が必要であります。

 このため政府は、中小企業等に対してきめ細かな配慮を加えつつ、総需要抑制の基調は今後ともこれを堅持してまいります。また流通合理化、低生産性部門の構造改善等長期的観点に立った総合的な政策を引き続き展開していく考えであります。

 各都道府県におかれましても、物価安定対策の実施について、今後とも特段の御協力と御努力をお願いいたします。

 今年の春季賃金交渉により三〇パーセントを超える大幅賃上げが行われましたが、これが物価に対してかなりの上昇圧力となっているものと考えられ、今後物価上昇が、さらに賃金上昇を呼ぶ悪循環が憂慮されるのであります。このような事態を回避するためには、賃金と国民経済の調和を図る必要があります。政府はこの点についても十分検討を進め、その在り方について、国民的コンセンサスの形成に努めてまいりたいと考えております。

 なお、この際、公共料金問題について一言しておきたいと思います。

 この十月から、国鉄、都営、民営を含む地下鉄、バス等の交通料金、消費者米価等の引上げが行われました。

 政府としては、従来から公共料金を極力抑制しており、国鉄運賃、米価についても、すでに相当期間改訂の実施を引き延ばしてきたところであります。しかし、公共料金といえども、いつまでも低い水準に据え置くことは、問題の解決をいたずらに先に延ばし、かえって大幅な価格改訂を余儀なくきれることにもなりかねません。公共料金のうち、特に公共性の高い国鉄運賃、米価等については、現に相当の財政負担を行い、あるいは生活保護世帯等に対する所要の措置を講じたところであり、合理的な範囲の受益者負担増を求めざるを得ないことについて御理解願いたいのであります。

 しかしながら、今回の公共料金の引上げが、いわゆる便乗値上げ等を引き起こすことのないよう十分配慮してまいることはもらろん、今後とも、公共料金の引上げについては、可能な限り抑制的に対処する考えであります。

(資源・エネルギー対策)

 世界の資源・エネルギー供給情勢は中長期的には誠に厳しいものがあります。資源・エネルギーの大部分を海外に依存している我が国にとって、その長期かつ安定的確保は最も緊要な国家的課題であります。政府としては、その入手方法の多様化、供給地域の分散化、資源の共同開発を積極的に推進するほか、備蓄増強のための諸施策も強化・拡充してまいります。

 将来のエネルギー供給の担い手として、原子力発電の重要性は極めて大きなものがあります。政府としては原子炉をはじめ原子力施設の安全研究の一層の強化、安全審査体制の拡充、廃棄物処理処分体制の確立等により万全の安全対策を講じ、安全性に関する国民の不安感を払しょくしつつ、国民の理解と協力のもとに原子力発電を中心とする原子力開発利用を推進してまいる所存であります。このたびの原子力船「むつ」の放射線漏れの問題は、誠に遺憾な出来事でありますが、政府は原因を徹底的に究明し、周到かつ抜本的な対策を講じて、今後の円滑な開発体制を確立してまいる決意であります。

 なお、太陽エネルギー等豊富で無公害の新エネルギーの利用技術の研究開発についても引き続き推進を図ってまいります。

 一方、資源・エネルギーの確保と並んで我が国経済・社会の体質を資源多消費型から省資源型へ根本的な転換を図っていく必要があります。政府は、先般内閣に「資源とエネルギーを大切にする運動本部」を設置するとともに、当面の省資源・省エネルギー対策の主要項目及びその実施細目を決定いたしました。これに基づき、石油緊急事態を契機として、国民の間に高まりつつある「節約」の気運を基盤として、産業活動及び国民生活の各般において息の長い省資源・省エネルギーのための諸施策を強力に推進してまいります。

 各都道府県におかれましても、省資源・省エネルギー対策の重要性にかんがみ、自ら資源・エネルギーの節約を図るとともに、節約の必要性に関する広報活動を積極的に展開するなど、その推進に努められるようお願いします。

(長期経済計画)

 当面する我が国経済社会の諸問題を克服し、高福祉社会の建設を図るためには、我が国の長期の発展方向を示す指針が必要であります。政府は、今後の経済運営の進路を明らかにするため、福祉社会の具体的内容、国際経済環境の動向等に関して総合的な検討を行い、昭和六十年展望の新しい長期経済計画を策定する考えであります。この新計画は国際経済社会との調和を図りつつ国民生活の質的充実と社会的公正の確保及び環境の保全を日指して均衡のとれた経済社会の発展を図ることをその基本とするものにしたいと考えております。

(新しい国士政策の展開)

 限りある国土の中で一億一千万人を超える国民が、将来にわたって物心ともに豊かで安定した生活を享受していくためには、土地問題の早急な解決を図るとともに、長期的展望に立って、過密・過疎問題を是正し、国土利用の抜本的再編成を進め、日本民族の新しいふるさとをつくり出すことが不可欠であります。このため、政府は、去る六月国土庁を発足させ、総合的土地対策の確立を図るほか、水資源対策の推進、大都市圏問題の解決、地方振興、災害対策の推進等に最大限の努力を重ね、新しい国土政策を展開していくこととしております。

 また、土地、水、エネルギー、人口などの長期展望のうえに立った新しい国土の発展方向を示す指針とするため、長期経済計画と併行して国土改造の十カ年計画の策定に着手いたします。この計画においては美しい自然に恵まれ、人間性豊かな高福祉社会、新しいふるさとを都市、農村を通じて建設していくプログラムを明らかにする予定であります。またこの計画と相まって、「国土利用計画法」に基づく国土利用の全国計画を作成してまいります。各部道府県におかれても、それぞれの地域の長期計画を策定されることと思いますが、政府としては、国と各地城の計画が相互にフィード・バックしながら作成されることが極めて重要であると考えており、相互の意見交換が十分行われるよう配慮いたしたいと考えております。

 現下の土地取引、地価の動向をみますと、金融引締め、土地税制の改善等の総合的な施策の効果の浸透とともに、昨年秋以降鎮静化しており、この傾向を今後も長期的に持続させていくことが必要であります。政府は、「国土利用計画法」制定の経緯を十分に尊重し、地方公共団体等の意向をも参酌しつつ、同法の的確かつ積極的な運用を図るような格段の努力をしてまいります。また、土地税制の改善、金融上の措置、公的宅地供給の促進等を含めて総合的な土地対策を推進し、一層の実効を期してまいる考えであります。

(環境及び安全対策)

 美しい国土を守り、豊かな自然を育て長く後代に伝えることは、我々の責務であります。政府は各種の公共事業や地域開発施策が自然環境を破壊し、新たな公害の発生をもたらすことのないよう、これらの実施に当たっては、その環境に及ぼす影響や防止策を事前に十分審査する環境影響評価の実施を一層促進する考えであります。自然環境の保護については、昨年自然環境保全基本方針を策定したところであり、今後、これにのっとり総合的施策を展開してまいります。

 また、公害のない快適な生活環境を確保するため、現行の環境基準、排出規制を強化、拡充し、総量規制方式の実施を急ぐこととしています。公害による健康被害者の救済対策については、九月一日から「公害健康被害補償法」を全面的に施行し、各種の補償措置等の充実を図ることといたしました。

 全国的な都市化の進展に伴い、火災をはじめとする災害発生の危険性はますます増大するとともに、その態様も複雑化、大規模化しております。さらに、交通事故は幸いにして減少の傾向にありますが、依然として国民生活に対する大きな脅威であります。政府は、何よりも人命尊重を基本とし、国民にとって、安全で、住みよい社会の実現を目指してさらに各般の努力を継続してまいります。

(農業問題)

 農業及び農村は、国土と自然環境を保全し、健全な地域社会を維持するうえで重要な役割を果たすものであります。政府は、その健全な発展を推進しつつ、我が国経済社会の均衡ある形成を図る考えであります。

 最近の世界的食料需給の状況からみて、我が国の食料政策は、国民の食料の安定的確保を図るため国内の生産が適当なものについては、極力国内で賄うことを基本とし、国土資源の制約等から輸入に依存せざるを得ない飼料、穀物については輸入の安定化の方策を進めていく考えであります。

 国内農業の振興のためには農業生産基盤の整備拡充を図るほか、農地の流動化の促進、集団生産組織の育成等を通じ農家の経営規模の拡大を図ってまいります。また、輸入に依存せざるを得ない農産物についても、備蓄政策や、国際協力の一環としての開発輸入政策などを進め、その安定的な供給を確保してまいります。

(社会保障)

 社会保障の充実は、活力ある福祉社会建設の柱であり、本年度予算編成においても、総需要抑制策を貫くなかで、最も力を入れた課題であります。特に、最近の物価の高騰により、その影響を最も受けやすい老人や生活保護世帯等については、既に年金額の物価スライド、生活保護基準の再度にわたる引上げ等の措置を講じており、今後も、経済情勢の変動に応じて適切に対処してまいりたいと考えております。 今後、ますます重要となる老人対策については、老後保障の中核となる年金制度の一層の充実を図るとともに、老人保健対策、生きがい対策等きめの細かい老人福祉対策の強化を図ってまいります。また、看護婦、保母等の養成確保のためその処遇の改善、養成施設の拡充にも努めてまいります。

 医療保険制度については、高額療養費制度の新設等給付の改善に努めてまいりましたが、特に国民健康保険については、その重要性にかんがみ、関係施策の充実を図ってまいる考えであります。

(教育問題)

 最近における社会経済の急激な変化と国際交流の著しい進展のなかにあって、我が国が限りない未来にわたって発展を続けていくために、教育の担う役割はますます重要なものとなってまいりました。

 教育の成果は究極において、個々の教師の資質のいかんにかかっていると言っても過言ではありません。政府は、教師に良さ人材を得、その情熱を安んじて教育に傾けられるようにするため、さきにいわゆる「人材確保法」を制定し、教員給与の改善を図ってきたところであります。

 また永年の懸案であった教頭職の法制化は、さきの通常国会で実現しましたが、これを契機として、今後更に秩序とうるおいのある教育環境の整備に努めてまいります。

 小・中・高等学校の教育内容については、児童生徒かゆとりを持って、自ら考え、自ら能力を伸ばしていく態度を身に付けさせるよう、その改善を検討しており、道徳性のかん養についても、学校教育はもとより、社会教育、家庭教育の全域にわたって十分配意してまいります。

 また、高等教育の機会拡大の要請にこたえ、高等教育機関の全国的な配置という観点を特に重視し、地方における大学の拡充を図ってまいります。技術科学系の大学院レベルの教育機関等いわゆる新構想の高等教育機関の創設についても、周到な準備の下に、鋭意努力をいたしてまいります。

(地方行財政)

 高福祉社会実現への国民の期待にこたえ、国土の均衡ある発展のなかで、個性を持った魅力ある地域社会を実現していくために、地方公共団体の果たす役割が強く期待されております。

 このため、今後は、福祉優先の立場に立脚した地方行政を積極的に展開し、立ち遅れた生活関連施設の整備や社会福祉水準の向上を図っていく必要があります。財政執行の繰延べに際しても、学校、生活環境施設等について特に配意したのはこのためであります。また、これに伴う財政需要の増加に対応するため、補助事業にかかる超過負担の解消、地方債計画における政府資金比率の改善等に努めてきたところでありますが、今後も地方自主財源の拡充、国庫補助負担制度の改善については、なお一層努力する考えであります。

 国民生活の向上を図るため、国・地方公共団体が担わなければならない行財政需要は、今後ますます増大するものと予想されます。したがって、地方公共団体におかれても、既定の行財政の内容を積極的に洗い直し、財源の重点的かつ効率的な配分に留意し、長期的な視野に立った計画的な財政運営を行っていただきたいのであります。

 特に、本年の人事院勧告による公務員の給与改定は、近年に例を見ない大幅な改定率となっており、これを完全実施することとした場合には、追加財源所要額は極めてぼう大な額に達すると見込まれます。すでに、国家公務員あるいは民間の給与水準を上回っている地方公共団体にあっては、その給与水準の適正化に努められることはもとより、計画的な定員管理と経費の節減を図っていただきたいのであります。このことが地域経済の要請にこたえる途であることは申すまでもありません。

 以上、当面する諸問題について、所信の一端を申し述べましたが、これらは、いずれも、地方行政を担当される各位の御協力を得てはじめて、その効果を発揮できるものであります。

 各位におかれましても、住民福祉の向上と地域社会の進展について格段の創意工夫をお願いする次第であります。





(私論.私見)